フィロデンドロン・エルチョコレッド|赤い新芽が美しい希少種の育て方図鑑
新芽を開くたびに鮮やかな赤〜銅色が目に飛び込んでくる——フィロデンドロン・エルチョコレッドは、一株の中で赤・ブロンズ・深緑が同時に並ぶ、色の移ろいを楽しむ希少種です。学術的には2022年に記載されたばかりの新しい種でもあります。
- 学名
- Philodendron rubrijuvenile(2022年記載・コロンビア原産)
- 見どころ
- 新葉の赤〜銅色と、ワインレッドの葉裏
- 最重要
- 支柱への誘引。これが葉の大きさと発色を決める
- 湿度
- 60〜80%。ビロード葉は乾燥で葉先が枯れる
- 温度
- 18〜30℃。冬は15℃以上を確保(10℃で停滞)
- 難易度
- ★★★☆☆(中級)
結論
- 最大の魅力は「新葉が赤〜銅色で展開し、成熟につれて深緑へ変化する劇的な色変容」。 一株の中で新旧の葉の色彩が常に共存する。これはアントシアニン(紫外線から細胞を守る色素)が若い葉に集中し、成熟とともにクロロフィルが増えることで起きる現象です。
- 支柱誘引が、葉のサイズアップと発色を左右する最重要ポイント。 上へ登らせるほど新葉が大型化し、赤みも鮮明になります。支柱なしで横に這わせると葉のサイズは頭打ちになります。
- コロンビア・チョコ地方の多雨林原産のため、高湿度(60〜80%)と水はけのよい培地の両立が必要。 「湿度が高い=水やりも多め」ではありません。空気は湿らせ、土は乾かす、が原則です。
基本情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 学名 | Philodendron rubrijuvenile Croat & R.Kaufmann(2022年記載) |
| 流通名 | El Choco Red/エルチョコレッド |
| 科・属 | サトイモ科(Araceae)フィロデンドロン属 |
| 原産地 | コロンビア・チョコ(Chocó)地方の低標高多雨林 |
| 生育型 | 半着生・登攀性(クライミング型) |
| 葉のサイズ | 室内栽培で葉長30〜60cm超(支柱誘引時) |
| 生育適温 | 18〜30℃ |
| 越冬温度 | 15℃以上が安全(10℃で生育停滞・5℃以下で葉が傷む) |
| 湿度 | 60〜80%(ベルベット系フィロデンドロン共通) |
| 栽培難易度 | ★★★☆☆(中級) |
特徴
新葉の赤と、葉裏のワインレッド
もっとも目を引くのは、巻いた状態から新葉が開く瞬間の鮮烈な赤〜銅色です。ラッカーを塗ったような光沢を帯びた赤が、1〜3週間かけてゆっくりとブロンズへ、そして深い緑へと移り変わっていきます。
見落とされがちですが、葉の裏側がワインレッドに色づくのもこの種の特徴です。株が若いうちほど裏面の赤みが強く出る傾向があり、種小名 rubrijuvenile(rubri=赤い/juvenile=幼若な)はまさにこの性質に由来します。葉を下から見上げられる位置に置くと、正面からは見えない赤を楽しめます。
成熟葉は深みのある濃緑色で、表面は微細な毛によるビロード(ベルベット)状のテクスチャー。葉脈が細かく浮き出る立体感も見どころです。
色変化の仕組み
新葉が赤〜銅色を呈するのはアントシアニンの働きです。葉がまだ薄く柔らかい段階では葉緑素(クロロフィル)の合成が追いついておらず、強い光や紫外線から細胞を守るためにアントシアニンが多く蓄積されます。葉が成熟してクロロフィルが十分に合成されると、アントシアニンは分解・減少して緑が前面に出てきます。
つまり赤は「未熟な葉を守るための日焼け止め」であり、光が強いほど濃く出ます。暗い環境では日焼け止めを厚く塗る必要がないため、淡いオレンジ〜黄緑色で展開してしまうわけです。

新芽の赤みが薄いなと感じたら、今展開中の葉だけを見て判断せず、少し光量を上げてから次に出てくる新葉を観察してみて。今の葉の色は変えられなくても、次の新芽にはちゃんと違いが出るよ。
名前の由来・来歴
「El Choco Red」という流通名は、原産地であるコロンビア北西部のチョコ(Chocó)地方と、葉の赤い色に由来します。チョコ地方は年間降水量が世界最大級の多雨地域であり、生物多様性ホットスポットとしても知られています。
長い間この植物は、近縁の P. verrucosum の一型、あるいは「Philodendron sp. El Choco Red」という未記載種として扱われていました。正式な学名が与えられたのは比較的最近で、2022年、Thomas Croat と R. Kaufmann によって Philodendron rubrijuvenile として Aroideana 誌上で記載されています。コレクター市場での人気が先行し、後から学名が追いついた種の典型例といえます。
近縁種との違い
| 比較項目 | エルチョコレッド | メラノクリスム | グロリオサム |
|---|---|---|---|
| 新葉の色 | 鮮明な赤〜銅色 | 淡い銅〜オレンジ色 | 淡いピンク〜銅色 |
| 葉裏 | ワインレッド | 緑〜淡い赤 | 緑 |
| 成熟葉 | 深緑・ビロード質 | 濃緑〜黒緑・ビロード質 | 濃緑・白い葉脈が鮮明 |
| 葉脈 | やや目立つ | 白〜クリーム色で鮮明 | 太く白い葉脈が最大の特徴 |
| 生育型 | 登攀性(強め) | 登攀性 | 這い性(クリーパー) |
| 必要な仕立て | 支柱・モスポール | 支柱・モスポール | 横長の浅鉢 |
| 越冬温度 | 15℃以上が安全 | 13℃以上 | 12℃以上 |
| 流通量 | 少ない(希少) | 比較的流通 | 比較的流通 |
見分けの実用的なポイントは葉裏と生育型です。葉を裏返してワインレッドなら、エルチョコレッドの可能性が高い。そして這うように横へ伸びるならグロリオサム、上へ登るならエルチョコレッドかメラノクリスム、と絞り込めます。
各種の詳細はメラノクリスム図鑑・グロリオサム図鑑をご覧ください。
育て方
育て方早見表
| 項目 | 目安 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| 光 | PPFD 80〜150(維持)/150〜250(発色重視) | レースカーテン越しか窓から1〜2m以内。直射日光は葉焼け |
| 湿度 | 60〜80% | 加湿器+サーキュレーター。湿度と通気は必ずセット |
| 水やり | 指を第一関節まで挿して湿り気がなくなったら | 高湿度=水やり多め、ではない。受け皿の水はすぐ捨てる |
| 仕立て | ヘゴ棒・コルクバーク・モスポールへ誘引 | 葉のサイズと発色を最大化する最重要ポイント |
| 温度 | 18〜30℃(冬は15℃以上) | 10℃で生育停滞、5℃以下で葉が傷む |
| 用土 | 排水性と保水性のバランスが取れた着生系配合 | 粗めのチップ材・パーライトで通気を確保 |
光
原産地では高い樹冠に覆われた林床〜中層に自生するため、明るい間接光が理想です。室内ではレースカーテン越しの窓辺、または窓から1〜2m以内が適しています。
光量の目安はルクスではなくPPFD(μmol/m²/s)で見てください。ルクスは人間の目の感度に基づく指標で、植物が光合成に使う青・赤の光を過小評価します。同じ「明るく見える」場所でも実際の光合成有効光量は大きく違うことがあります(詳細は観葉植物用育成ライトの選び方)。
| 目的 | PPFDの目安 |
|---|---|
| 今の姿を維持する | 80〜150 μmol/m²/s |
| 新葉を大きくし、赤みを鮮明に出す | 150〜250 μmol/m²/s |
窓から遠い部屋ではフルスペクトルの育成ライト(色温度4000〜5000K)を補助的に使うと、新葉の発色が改善します。ただし夏の直射日光、特に西日は厳禁です。ビロード状の葉は一度焼けると戻りません。
湿度と水やり
熱帯多雨林出身のため湿度60〜80%を好みます。日本の一般的な室内(40〜60%)でも育てられますが、湿度が低いと葉先が枯れ込んだり、新葉が展開途中で止まることがあります。
加湿器、または鉢の周囲に水を張ったトレーを置く方法で湿度を補います。湿度を上げるときは必ず送風(サーキュレーター)をセットにしてください。 湿度だけ高く空気が停滞すると、株元や葉に菌が出やすくなります。

腰水トレーは鉢の底を直接水に浸すわけじゃなく、周りの空間の湿度を上げるための方法なんだ。鉢底が水につかりっぱなしにならないよう、鉢の下には必ず鉢底石や台を挟んで隙間を作ってあげてね。
水やりは指を第一関節まで挿して湿り気がなくなったタイミングで、鉢底から流れ出るまでたっぷり。ビロード葉のフィロデンドロン全般に言えることですが、過湿・根腐れには非常に弱いので、水やり後の受け皿の水は必ず捨てます。
- 春〜夏(生育期):培地の表面が乾いたらたっぷり
- 秋〜冬(生育鈍化期):頻度を落とし、やや乾燥気味に
- 水質:塩素の少ない軟水が理想。水道水は一晩汲み置きすると安心

「高湿度が好き」という情報だけを見て水やりの頻度まで増やしてしまう人がいるけど、それは別の話なんだ。空気の湿度を上げることと、土を頻繁に湿らせることは違うから、水やりはあくまで土の乾き具合で判断してね。
仕立て(最重要)
エルチョコレッドは登攀性で、自然界では木の幹に気根を絡ませながら上へ伸びていきます。室内でも支柱に登らせることで、はじめて本来の葉のサイズになります。
- 1支柱を選ぶ気根が活着しやすいヘゴ棒が最適。コルクバークやモスポール(水苔ポール)でも代用できる
- 2鉢の中心に立てる株のすぐ後ろではなく、気根が出ている側に立てると届きやすい
- 3茎を緩く固定する麻ひもや園芸用テープで、締めつけない程度に留める
- 4支柱を湿らせるヘゴ棒・モスポールは霧吹きで湿らせておくと気根が食い込みやすい
- 5待つ気根が支柱に活着すると、そこから出る新葉が一段大きくなる。効果が出るまで新葉2〜3枚ぶん
気根は「支え」であると同時に、支柱の表面から水分を吸う器官でもあります。乾いた支柱に縛りつけただけでは活着しにくいため、表面が湿った状態を保てる素材(ヘゴ棒・モスポール)を選ぶと結果が変わります。
用土
排水性と保水性のバランスが取れた着生系の配合が向きます。市販の観葉植物用培養土をそのまま使うと保水しすぎるため、粗めのバークチップ・パーライト・軽石などを混ぜて通気を確保してください。
tokyoplantsの「I'm original SOIL(tokyoplantsプレミアム培養土)」(2L ¥1,200/10L ¥4,800・ジップ付きで使いたい分だけ出せる)をベースに使う場合も、粗めのチップ材を1〜2割足すとこの種に合わせやすくなります。植え替えの具体的な手順はフィロデンドロンの植え替えガイドにまとめています。
温度
適温は18〜30℃。熱帯原産のため低温に弱く、10℃を下回ると生育が停滞、5℃以下では葉が傷みます。日本では冬の管理が最大の関門です。
- 冬の最低温度:15℃以上を保つのが安全ライン(10℃は「これ以上は下げてはいけない」下限)
- エアコンの直風:冷暖房の風が直接当たると葉が乾燥・変色する
- 窓際の冷気:冬の夜間は窓から離すか、断熱シートで保護する
よくあるトラブル
症状から原因を絞り込み、対処までを1枚にまとめました。判定の順番は「支柱の有無 → 光 → 根の状態」が効率的です。支柱を立てずに光量だけ上げても、葉のサイズは頭打ちになりやすいためです。
| 症状 | 最有力の原因 | 見分けるサイン | 対処 | 改善までの目安 |
|---|---|---|---|---|
| 新芽が赤くならない | 光不足 | 節間も間延びしている | 窓辺へ移動(数日かけて慣らす)/育成ライト補光 | 次の新葉から変化 |
| 葉が小さい① | 支柱がない | 茎が横に這う・気根が空中で伸びたまま | ヘゴ棒やモスポールに誘引し気根を活着させる | 新葉2〜3枚で段階的に大型化 |
| 葉が小さい② | 光不足 | 新葉の赤みも淡い | 窓辺へ移動/補光 | 次の新葉から変化 |
| 葉が小さい③ | 根詰まり | 鉢底から根が出る・水の抜けが異常に速い | 一回り大きな鉢へ植え替え | 1〜2ヶ月で回復 |
| 葉焼け(茶色い斑点・白化) | 直射日光 | 光が当たる側の葉だけ症状が出る | 窓から離す/遮光する。焼けた部分は戻らない | 次の新葉は正常 |
| 葉先・葉縁が枯れる | 低湿度/水不足 | 湿度計が50%以下・土が乾ききっている | 加湿器+送風、培地の乾きを確認 | 枯れた葉先は戻らない |
| 新葉が展開途中で止まる | 低湿度 | 巻いたまま固まる・変形する | 新葉が出始めたタイミングで湿度を上げる | 次の新葉から |
| 急に萎れる・土が常に湿る | 根腐れ | 株元がぐらつく・土から酸っぱい臭い | 鉢から抜いて腐敗根を切除し、新しい用土へ | 根腐れの原因と復活方法参照 |
増やし方
エルチョコレッドは茎伏せ・挿し木(節挿し)で増やせます。種子は国内ではまず流通しません。
- 1節を含めて切る葉が1枚以上つき、節(気根が出ている部分)を必ず含むように、清潔なハサミで茎を切り分ける
- 2切り口を乾かす30分〜数時間、風通しのよい日陰で切り口を乾かす
- 3水苔かパーライトに植える気根と節が培地に触れるように浅く固定する
- 4高湿度を保つ密閉容器や袋で湿度70〜80%を維持し、明るい日陰に置く
- 52〜4週間待つ新根が伸びてきたら成功。新葉が1枚展開したら通常の用土へ移す
適期は生育期の春〜初夏です。気温が20℃を下回る時期の挿し木は発根率が落ちます。希少種のため親株を大きく切り詰めるのはリスクが高く、まずは1〜2節から試すのが現実的です。

節挿しで大事なのは、葉の枚数じゃなくて「節と気根がちゃんと含まれているか」だよ。葉だけを切っても根は出ない。切る前に茎をたどって、気根の出っぱりがどこにあるか確認してから刃を入れるといいよ。
まとめ
- 見どころは新葉の赤〜銅色と、ワインレッドの葉裏。 赤はアントシアニンによる「日焼け止め」なので、光量が足りないほど淡くなります
- 葉を大きくする鍵は支柱への誘引。 光や肥料より先に、まず登らせる環境を作ること
- 湿度60〜80%・冬は15℃以上・土は乾かす。 「空気は湿らせ、土は乾かす」が管理の合言葉
2022年に記載されたばかりの新しい種で、国内の流通量はまだ限られています。新葉が開くたびに色が変わっていく過程は、写真より実物のほうが圧倒的に面白い植物です。
→ 同属の品種を見る:フィロデンドロン属図鑑/メラノクリスム/グロリオサム → 同科(サトイモ科)の他属:モンステラ属図鑑 → tokyoplants フィロデンドロン商品一覧
この記事を書いた人

Masashi Matsubuchi / tokyoplants
tokyoplants オーナー
東京・世田谷を拠点とする希少観葉植物専門店「tokyoplants」オーナー。自ら海外へ足を運んで一点ずつ厳選した株を買い付け、年間800株以上を自身の手で育てて販売しています。
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