tokyoplants
なぜ希少植物の価格は暴落するのか——チューリップバブルからモンステラ・アルボまで
リサーチ

なぜ希少植物の価格は暴落するのか——チューリップバブルからモンステラ・アルボまで

by tokyoplants 編集部

2021年頃、モンステラ・アルボバリエガータ(白斑入りモンステラ)の一株が50万円〜100万円で取引されていました。それから数年後、同じ品種が5万〜10万円で売られるようになりました。

植物の価格はなぜここまで激しく変動するのか。そしてそのサイクルはいつも、同じ構造で繰り返されます。


最初の植物バブル:チューリップ狂時代(1634〜1637年)

希少植物の価格暴騰は、17世紀のオランダで歴史上初めて記録されました。**チューリップバブル(Tulip Mania)**と呼ばれるこの現象は、世界初の投機的バブルとも言われています。

なぜチューリップだったのか

チューリップはオスマン帝国(現トルコ)からオランダへ持ち込まれた外来植物でした。16世紀後半から上流階級の間で人気が広まり、特に「割れ色(broken colors)」と呼ばれる炎のような模様が入った品種が珍重されました。

この割れ色は、実はチューリップモザイクウイルスへの感染によって起きる症状でした。感染した球根から増殖した球根にも(確率的に)同じ模様が出るため、「幻の品種」として希少性が高まりました。

バブルの構造

需要が供給を超えると価格が上がります。価格が上がると「転売目的の買い」が加わり、さらに価格が上がります。球根ひとつの価格は1636年のピーク時に約6,700ギルダー——熟練職人の年収の約10倍に達しました。アムステルダムの邸宅1軒と交換した記録も残っています。

しかし1637年2月、あるオークションで買い手がつかなくなった瞬間から価格は崩壊。数週間で価格は最大値の約1%以下まで暴落しました。

「市場参加者全員が『他の誰かが自分より高い値段で買う』と信じている間だけ価格は上がり続ける」——これをバブルの構造と言います。


現代の希少植物市場:2019〜2022年のアロイドバブル

約380年後、同じ構造がほぼそのまま再現されました。

火付け役:コロナ禍のロックダウン(2020年)

新型コロナウイルスによる外出制限が世界各地で実施された2020年、「家時間」が急増した人々が観葉植物に注目しました。インスタグラム・TikTokでボタニカルコンテンツが爆発的に増加し、特に「映える」希少アロイドへの需要が急増しました。

当時の希少植物の価格高騰例:

品種 2020年ピーク時の価格(目安)
モンステラ・アルボバリエガータ(株) 30万〜100万円超
フィロデンドロン・グロリオサム 10万〜30万円
アンスリウム・ワロクアーナム(株) 10万〜50万円
アロカシア・アジアン・アーギロン 5万〜20万円

価格を押し上げた3つの要因

① SNSによる需要の急速な可視化 希少品種の画像が「いいね」を集め、それが購買欲を刺激するサイクルが生まれました。コレクターの保有株が「ステータス」として機能し始めました。

② 繁殖速度の限界 植物の繁殖(増殖)は時間がかかります。株分け・挿し木・組織培養いずれも、急増する需要に生産が追いつきません。この「供給の天井」が価格を高止まりさせました。

③ 転売市場の形成 メルカリ・ヤフオク・Instagramでの個人売買が活発化し、転売目的の購入者が市場に参加しました。チューリップバブルと同じ「転売プレミアム」が上乗せされました。


なぜ価格は暴落するのか

希少植物の価格が必ず下がる理由は、植物が繁殖できる生物であることです。チューリップ球根は増える。モンステラは挿し木で増やせる。アンスリウムは子株を出す。

市場価格が高ければ高いほど、生産者・農家・温室業者が繁殖・増産に参入します。そしてある閾値を超えた時点で、供給が需要を上回ります。

モンステラ・アルボバリエガータの場合、2021年頃から:

  • オランダの大手ナーサリーが組織培養で量産を開始
  • タイ・インドネシアの業者が大量に輸出
  • 国内の繁殖業者が挿し木での増産を本格化

これらが同時に起きた結果、2022〜2023年にかけて価格は急落しました。「幻の植物」が「手が届く植物」になった瞬間です。


価格暴落サイクルのパターン

チューリップバブルから現代のアロイドブームまで、以下のサイクルがほぼ共通して観察されます。

① 希少品種が注目される(SNS・メディアの露出)
       ↓
② 価格上昇 → 転売目的の購入者が参入
       ↓
③ さらなる価格上昇 → 生産者が増産に参入
       ↓
④ 供給が需要を上回る
       ↓
⑤ 価格暴落 → 転売目的の購入者が撤退
       ↓
⑥ 本当に好きな人だけが残り、適正価格に収束

このサイクルは、株式市場のバブルと同じ構造です。植物に限らず、ポケモンカード・NFT・ヴィンテージスニーカーも同じパターンをたどります。


「次にバブルになる植物」はあるか

現在(2026年時点)、アロイドの主要品種は価格が落ち着いています。では次にバブルになる品種はあるでしょうか。

いくつかの条件が重なったとき、バブルが生まれやすくなります。

  • 増殖が難しい:実生(種からの繁殖)しかできない・挿し木が難しい種
  • ビジュアルのインパクト:SNS映えする形・色・模様
  • ストーリーがある:産地・発見者・限定感

現在でも一部のビカクシダ選抜系統・アンスリウム原種・フィロデンドロン希少種はこれらの条件を満たしており、局所的な価格上昇が続いています。ただし「バブル」と呼べる規模には至っていません。


植物を「投資」として見ることの限界

希少植物の価格バブルを見て「買っておけばよかった」と感じる人もいるかもしれません。しかし植物への投資には根本的な問題があります。

植物は生き物であること。管理を誤れば枯れます。枯れた資産は価値ゼロどころか、撤去コストがかかります。

増殖を制限できないこと。株式とは違い、どの生産者も(合法的に)同じ品種を増やせます。独占できない資産は長期的な希少性を保てません。

流行は読めないこと。「次にバブルになる品種」を予測しても、外れる可能性の方が高い。

植物の最大の価値は、育てることそのものにあります。100万円で買ったモンステラが10万円になっても、その植物が毎年新しい葉を出し続けるなら、それは「元が取れない失敗」ではなく、単に「価格が落ち着いただけ」です。

希少植物のバブルと暴落は、私たちに「価値とは何か」という問いを植物という形で突きつけています。


まとめ

時代 植物 バブルの発端 崩壊の理由
1634〜1637年 チューリップ 外来希少品種への熱狂 買い手消滅
2020〜2022年 モンステラ・アルボ等 コロナ禍+SNS 組織培養による大量供給

「植物バブル」の本質は変わっていません。希少性+増殖の困難さ+社会的な需要の爆発——この3つが揃うとき、植物は「商品」を超えた投機対象になります。そして供給が追いつけば、かならず価格は落ち着きます。

チューリップが球根に戻ったように、モンステラも植物に戻りました。それが自然なことです。

Next Read

読了後におすすめの記事

tokyoplants で購入する

ショップを見る →

tokyoplants Online Shop

東京都世田谷区の小さなマンションで、希少な観葉植物を育てています。仲介業者を通さず、自ら海外まで足を運び、現地で一点ずつ厳選して買い付けた希少植物たち。国内ではなかなか出会えない珍しい品種を、手の届きやすい価格でご紹介しています。

ショップを見る →

Instagram で最新情報をチェック

入荷情報・育て方のコツを発信中

@tokyoplants_

関連記事

リサーチの他の記事